見えない都市:イタロ・カルヴィーノ
見えない都市
庭、灰/見えない都市 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)
posted with amazlet at 10.05.27
マルコ・ポーロが語る都市の諸断片は大江健三郎「同時代ゲーム」の最終章に登場する森の中のイメージに重ね合わせることもできるし、あるいは彼が(P:202)いうように「あり得べき彼自身の未来であったもの」、いわゆるゲーム的リアリズム的想像なのかもしれない。またすべての都市は似通っていることから、ニーチェかもしくは主題と変奏なのだろうか。またはマルコは結局本当の都市について何も語っておらず、ただ現在過去未来の可能なパターンにすぎないのかもしれない。いや、こんな話はやめよう。あまりに抽象的で、何も語っていない。語りなおそう。
最終第九章で描かれる、フビライ汗のもつ地図帖(アトラス)は、無限の都市を持っており、同時に無限もしくは予測不能な道とひとつの終末を指し示す。それは「輪を狭めてゆく渦巻」のように絶望的にみえる。しかし、都市は常に共時的であるから、それは時間的線形的ではない、最後に最悪の都市に至るのではなく、時間的に並存する都市間の間での選択、良い悪いの決断が必要なのである、とマルコはいう。都市の諸々の変容を思考することが欠かせないのであり、その思考の概念として、これまで多くの都市がマルコ・ポーロから語られていたのだ、とわれわれは気付く。この小説が都市についてのただのお喋りではなく、極めて真面目な物語であったことに気付かされる。
文庫版もあるが、上の全集版のほうをすすめておく。庭、灰がすばらしい小説なので、ぜひ読んでみてほしい。図書館でもいい。