西洋音楽史―「クラシック」の黄昏:岡田 暁生

クラシックを聴こうと思い立って、初めの一冊として何かよい入門書のようなものがないかと探すうちに本書を見つけた。読んでよかったと思う。

本書では西洋芸術音楽、中世の教会音楽から、二十世紀のクラシックの衰退(語弊があるが)までを、受容史と技法の歴史という二つの流れから辿っていく構成になっている。初めに中世音楽の歴史――グレゴリオ聖歌の装飾として誕生したオルガヌム声部が、徐々に独立しモテットという一ジャンルを形成するまで――と、ルネサンス期における通模倣様式の誕生や「作者」の登場、バロックの始まりを告げる第二作法(不協和音の発見)などの記述を読むことで、われわれの知る音楽がいわば徹底徹尾歴史的なものであることが納得できるようになっている。

本書を読む前の、孤島が海に点在するようなクラシック理解に比べると、曲がりなりにも歴史年表と人物位置が整理され、音楽の楽しみも増えた。やはり歴史は理解の一部をなしているのだろう。著者のクラシックへの見解が叙述に大いに反映しており、例えばベルリオーズの音楽についてその受容層であったスノブ(俗物)と結びつけて「物量作戦」で驚かせる、ハッタリをきかせた音楽であるというのは、著者に悪気はないのだろうけど、ベルリオーズを聴く時に頭をよぎるようになってしまった。(笑い話だけれども)
「美的判断」と「歴史判断」を分けて考え、その片方だけを摂取することも可能だろうし、いや読み方は僕がとやかくいうようなことではないが、ともあれそれを差し引いても非常に素晴らしい本です。