言語学者列伝

本書は"Portraits of Linguists"の抄訳です。原書の出版年は1966年、また1200pageの大部らしく、18世紀から20世紀にかけて活躍した言語学者91名が取り上げられているらしいのですが、本書ではそのうち8人分、訳文で140ページが訳出されています。
参考までに、本書の目次をAmazonから引用します。

ウィリアム・ジョーンズ(1746‐1794)―インドとヨーロッパを結び付けた男
ヤーコプ・グリム(1785‐1863)―童話の大家はグリムの法則の発見者
フランツ・ボップ(1791‐1867)―恵まれた研究環境の中で才能を開花させた印欧語比較文法の祖
ヘンリー・スウィート(1845‐1912)―自分にも他人にも甘くなかったSWEET先生
フランツ・ボアズ(1858‐1942)―弟子たちからパパ・フランツと呼ばれたアメリ文化人類学の父
オットー・イエスペルセン(1860‐1943)―英語国民よりも英語を愛し、英語研究で名を残したデンマーク
アントワーヌ・メイエ(1866‐1936)―20世紀を代表する文献学者、言語学者にしてフランス語の名文家
カール・ダーリング・バック(1866‐1955)―学生の人気など意に介さなかったアメリカ印欧語学の創始者)

本書は一章ごとの纏まりがよく、業績と経歴がコンパクトに纏められているのですが、それだけでなくその人物の信念にまで踏み込んでいることもあり、興味深いです。例えばグリムの言語観に神秘主義の影響が見られることや、彼にとって言語の歴史とは部分的退化とその修正の試みによる全体的進歩との並進であるということ。奴隷制に激しく反対するウィリアム・ジョーンズや言語の恣意性の幅を境界画定するポアズなど、時代性(取り上げられている学者だけではなく原著も。上に書いたように原著の出版年は1966年ですが、章によっては更に古い文章も!)といって終わらせるには惜しい内容も豊かです。

本書の第二部には、訳者の樋口氏の論文が併録されています。無学と失礼を承知で、正直なところをいえば、それより訳出される章を増やして欲しかった、のですが「特定言語に関する記述の一例」として収録された、と後書きにはあります。

最後になりましたが、なにより本書は読んでいて楽しい本です。言語学の歴史を概観したりするにはさすがに量不足ですが、エッセイやコラムとしては充分に楽しめます。