『侵入者』ジャン=リュック・ナンシー

さいきん、「休み時間の免疫学」という本を読んだ。

休み時間の免疫学 (休み時間シリーズ)
齋藤 紀先
講談社
売り上げランキング: 63274
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5 (^^)
5 斎藤先生(≧∇≦)
5 いや、よかった
免疫学については全く何も知らなかったので、入門者向けの本を探して見つけたのだったけれども、非常にわかりやすく書かれていて、よい本だと思った。例えば免疫機構が自己を守るということはどのようにして起こるか。免疫が持つ自己認識能力、自分の身体とその他者とを見分ける能力に起因する非特異的な防御機構がある。更に特定の抗原に対してのみ働きかける特異的防御機構/免疫がある。
http://www.geocities.jp/yocchi_stripes/meneki.html

【非特異的防御機構(一般的防御機構)】
  ・体外からの異物の進入を防ぐこと

『侵入者』とはこの「異物」となった他者の心臓に他ならないのだけれども、なぜかというと、免疫の自己同定は、他者の心臓を拒絶するからだ。だから免疫抑制剤が打たれる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%8D%E7%96%AB%E6%8A%91%E5%88%B6%E5%89%A4
ただし、本書においては単純に「他者の心臓(臓器)」のみが他者であるということをいっているのではない。むしろ「侵入者」が到来するまえに、自ら(の心臓)が他者となる。

けれども、だめになったのはこの他者、わたしの心臓なのだ

我々の生は我々の身体、臓器が無くては存在しえない。臓器が生なのではないけれども、臓器がなければ生も無い。「よそ者」の概念がここで曖昧になる。とはいえ、その概念自体は冒頭で明確に定義されている。言い直せば、侵入者として侵入し続けるもの。受け入れがたいままに留まるもの。

(解説は、このむずかしさをよく表現している。つまり、自らの生を維持する「他者の心臓」とそれを排除しようとする「私の免疫」この対立を抑える「免疫抑制剤」・・・(もはや心臓はよそ者であるとともに私のもっとも馴染み深いものであるし、免疫すらよそ者となりうる))

そして政治的カテゴリ。p.93からの解説や、「近代政治の脱構築
http://d.hatena.ne.jp/musashino10/20091214/p1
の訳者解説にも触れられているように

「免疫immunity」という言葉はラテン語のimmunitiasからきており、元々は「課役munitas」を免除されるという意味で、中世に教会領内の住民が行政上、司法上、世俗権力によって拘束されない特権を指して言われたものだという。(多田富雄『免疫の意味論』による)。

侵入者(p.93)

そしてたぶんなによりも、本書はわれわれと技術との関係を語り続けているのだろう。(p.41〜)
少しだけ、引用して終わる。

人間は、あるがままのものになる。もっとも恐ろしい、もっとも困惑させる技術者に。