テイラーのコミュニタリアニズム:中野剛充

テイラーのコミュニタリアニズム
中野 剛充
勁草書房
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チャールズ・テイラーはコミュニタリアンの一人として名を知られる。共同体主義者のうちロールズを正面から批判したものとして、マイケル・サンデルマイケル・ウォルツァーがおり、サンデルはリベラリズムの自己を道徳について満足行く説明を与えない「負荷なき自我」として批判し、自己の概念として、「居場所を与えられた自我situeted self」を対置した。この自己概念とテイラーのそれとの類比から本書は始まっているが、まずは目次を挙げる。(小目次など、省略)

序章 二つの論争とテイラーの社会哲学
第一章 テイラーの自己論
第二章 テイラーの社会-存在論
第三章 ヘーゲルバーリン
第四章 テイラーの政治論
第五章 テイラーの近代論
結論 テイラー哲学の可能性

本書をよめば目次にあるようなテイラー理論は明確になるだろうけれど、初見では読みづらいかもしれない。大体の流れを書いてみることにする。
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まずは自己論から。人間は自らの欲求を価値評価できる動物であり、またその「重要性」の基準を自己解釈(による分節化)によって変革できる。またその変革可能性ゆえに、人間の現在の状態は自らの選択の結果ということになり、それが「責任主体としての自己」であることを支える。また、自らに固有の「真正さ」に従った理念を実現することが、そういった主体が取るべき倫理として考えられる。しかしそこで個人主義一辺倒に陥るわけではない、と著者はいい、それが続く社会と個人の絡み合いによって説明される。
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最初にいった自らの欲求の評価は、テイラーによって「強い評価」と呼ばれるが、これはきわめて社会的な背景をもっている。この評価の頂点を「善」基準を「フレームワーク」と定義した後、このフレームワークは個人によって発明されるのではなく、「採用」するのだといわれる。(40p)
続いてテイラーの言語論が概観され、言語によって開かれ、維持される「公共空間」によって人間関係が構成されており、そこに対話によって参加することで個人はアイデンティファイしつづける。それをテイラーは「対話的自己」となづけており、そこではアイデンティティの基底として、承認とその裏面たる抑圧が問題として浮上してくる。また対話の過程で言語自体が再構成、再分節化されるという仕方であるからそれは表現的(表現-構成的言語論)であり、またクワインらがいうところの全体論も包摂され、言語と自己とのかかわり、対話的自己の根拠が示される。
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三章ではテイラーがヘーゲルバーリンから何を受け継いでいるかが語られた後で、バーリンが消極的自由と積極的自由の間に区別を設け、後者の危険性を全体主義に結びつけて述べたことに対して、テイラーは先に述べたように自己を自己解釈として考えることから、そういった自己概念にとり消極的自由は不足である、と批判し積極的自由を擁護する、といった対立がかかれている。
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四章では、テイラーが実際にどのような社会を志向しているのかが語られる。言語がアイデンティファイに果たす役割を考慮にいれ、言語共同体を擁護しつつ、かといって民族がそれぞれの国を持つべきではなく(後述)、むしろ一国内に文化的多元性を成立させる、というモデルを提示し、それを可能にするリベラリズムを下のように表現する。

ウォルツァーの言葉を借りれば、テイラーは「リベラリズムⅠ」――すなわち「考えられる最強の方法で個人的な権利を指示し、……厳格な中立的国家……いかなる種類の集合的目標も持たない国家を支持する」立場――を批判して、「リベラリズムⅡ」――すなわち、「特定の民族、文化、宗教、あるいは(かぎられた)一連の民族、文化、宗教の存続や反映を支持する国家を許容する」立場を支持するのである

(p.101)
これに加え、民族が国家となるべきではない理由として、国家への帰属の仕方の多様性をテイラーは指示している。「深い多様性」とは個人がアイデンティファイを共同体への帰属という方法、すなわち多様な方法で為すことを考慮にいれなければならない。それは先ほど「承認」と別ではない。

こうして深い多様性においては、人々が個人として国家に帰属するのみならず、特殊な共同体のメンバーとして帰属するという、二つの帰属性が共に認められなければならないことになる。
そしてテイラーが指示するのは、後者の見解である。

(p.104)
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五章では、テイラーの道徳論が語られる。倫理学の流れを辿りつつ、デカルト-ロックの自己を支配し行く道とモンテーニュからロマン派へと続く自己の源泉を発見せんと求める道の二つが区別され、それぞれの道を概観した後、社会に言語的に開かれた自己を、「人格的共鳴」に基づいたエピファニーにより、自己の道徳的源泉を自己の内部に発見する可能性を第三の道として示唆する。続いて結論で、テイラーへの外部からの批判と、著者がテイラーに問うた内在的批判とが展開される。

そういうわけで、大体の流れを見てきた。本書ではこの後、二十ページほどのロールズとサンデルの対決が米政治理論に及ぼした影響について考察した論考が付属している。コミュニタリアニズムの中心的論者の一人として、テイラーの思想を把握しておきたかったので本書は役に立った。